付録2-3
・マンガの上達法(怒濤のテキスト)
■付録2-3-1.マンガが上達するタイミング
人生の中でマンガが上達するタイミングが有ります。それを上手く利用すると、キチンと才能が伸びていくと思います。マンガを誰かに習う前にもそのタイミングが有るので、しっかりそれを逃がさないようにしましょう。
そのタイミングには個人差があるようですが、大きく分けてその人の年齢に沿った場合と普段の日常生活の場合が考えられます。
1)マンガを初めて描こうとする時
マンガを初めて描こうとする瞬間、ほとんどの人は『どうしたらいいか?』と考えます。多くの場合は、誰か好きなマンガ作家の絵を真似て終わるでしょう。マンガをはじめて描こうとする瞬間は、そんなものです。
この時、『コマを割って、セリフ入りのマンガを描きたい』と思い、さらにその好きなマンガ科の1ページを真似て描く人は、かなりいい感じです。マンガは単なる絵ではないことに、何気なく気付いたといえましょう。
でも、別にこの段階でコマを割って描かなくても、これを起点にしてマンガの絵を描きはじめることが重要です。
そして、コマを割ったページレイアウトを良く読み、そのマンガをよく読んでどうなっているのかを考え、理解しようとします。
つまり、『マンガ』というモノに興味をもって、それはどんなものかを探るように読み、それを真似するとこからマンガを覚える一歩が始まります。
ここで、真似るマンガに対しての熱中度が高ければ高いほど、上達します。しかし、ここでの上達具合は、全体に比べたらさほど影響はないようです。
2)マンガに熱中しはじめの時
マンガを意識してからたくさんマンガ作品を読んだり、アニメを観たりするようになります。そのまま行けば、マンガファン、アニメファンで大人になっていきます。
しかし、ウスラボンヤリでも、プロを意識する瞬間が来る場合があります。この時、それを意識したならば、あなたは少し上達するチャンスに恵まれたことになります。
つまり、プロを意識した時、プロに必要なモノを考えるようになります。私の場合は、『マンガの道具』でした。
マンガがどの様に描かれているのか、または、何に描かれているのかを調べ、それを体験して見たくなります。そして、マンガの道具を買ってマンガ入門に書いてある通り描きますが、実は簡単に描けない現実を知ります。この時、努力で上達することを知り、さらに上達を願うようであれば、上達するでしょう。
しかし、ここでの上達具合はそこそこと思ってください。実は次の機会が、爆発的に才能を伸ばす機会になります。
次の機会は意外に早く来る場合が、多いようです。どんな機会かというと、マンガを一人で描いていると、次第に『他の人はどんな風に描いているのだろう?』と思うようになって来ます。そして、その『他の人』を捜しをはじめます。
多くの場合は、学校などのマンガ研究会やネットや雑誌の紹介欄で知ったサークルに入会がそれにあたります。
この時、他の人のマンガの上手さに驚き、追いつこう、もしくは、追いつかれまいと努力する時、これがかなり上達するきっかけになります。
つまり、上手な作家ばかり目標にしてる場合、あまりにもかけ離れている為に現実味がないのに対して、マン研やサークルには同じような生活をして、同じくらいの年齢の人が居て、その人がライバルになるから必死になります。リアリティが違います。
ここからマジモードに入れる人は、見込みがあります。このようなライバルの出現にもタイミングがあって、思春期のころに出会うと才能が伸びるようです。
これはマンガに限ったことではなく、他のジャンルでも同じ様なことが言える場合が多いようです。
つまり、上達の起爆剤として、同じ目線で、同じ様な価値観をもって、同じジャンルに打ち込む仲間を持つことが重要になって来ます。しかし、そのライバルになる人が、あまり変だとその効果は薄いようです。いいライバルを捜すこと、もしくは見つかる運命が、大きな上達を生みます。
3)マンガでプロ作家を目指す時
次は、実際マンガのプロ作家を完全に意識した時がチャンスになります。この文章を読んでいる人の多くの人達は、多分この段階以降にいる人達だと思います。
ですから、ここからが良く耳をかっぽじって聞いて欲しいと思います。
まず、マンガのプロになろうとしたら、『意識』をしっかり持つことが大きなポイントになります。この『意識』は、『自分はこんなマンガ作家になろう』とか、『こんな作品を描きたい』などの思いから始めても良いです。
恋愛も相手を『意識』するようになってから始まるものです。好きになった相手の事を常に考え、『どうしたらこちらを振り向いてくれるのか?』とか、『彼女(彼)はどんな事をしたらよろこぶのか?』などを常に考えて、日常生活の一寸したことからその解答を見つけ出していきます。
マンガも恋愛と一緒です。
『意識』する所から、始めてください。
4)何かに目覚めた時
『意識』して、マンガ技術が伸びていった先には、ある程度の技術を持っているあなたが居ます。
しかし、そこがプロ作家として活躍ができる場合は良いのですが、そのレベルではプロ作家の範ちゅうに入らない場合もあります。
その場合は、残念ながら急激な成長の機会は極めて少ないと考えられます。しかし、いくつかの成長の可能性は遺されています。
その一つに、読者対象を換えて作品を描いてみることが一つの可能性です。
これは、あなたの成長として『頭の成長』が必要になります。今までの対象が中高生だったとしたら、サラリーマンを読者対象にすることや、青年誌を舞台にマンガを描いていたら、もっと高いレベルの対象読者にすることが一つのレベルアップになる場合があります。これには、高い国語能力が必要になり、読者の脳味噌が持っている知識より高い知識が必要になります。作品を手がけるにつれて、高い技術が必要になり、取材能力、資料収集から整理能力、まとめる力などが必要になります。
これが難しい人は原作者などがつく場合がありますが、それには高い作画能力と演出能力が必要です。私は、難しい小説などを普段から読んだり、テレビのドキュメントをきちんと分析をしながら見るような姿勢から入り、自分自身のスキルを上げていく方を薦めます。
もう一つの成長の可能性は、宗教じみていますが、『何かに目覚めた時』です。
マンガを描いている中で、全く今までと違う価値観を持つきっかけになる事件を体験した時が、それに当ります。例えば、死にそうになった時、死に直面すると人間は価値観が変ります。それによって導き出される価値観は、今までと一線を画します。これによって作風が変ったり、内容がシビアになり、深みが増したりします。やはり、経験は大きな武器になります。作家とは、そういうモノも飲み込んでいくものなのです。
絵に関しては長いスパンで描いていくと、一定以上上手くなったら、それ以降は落ちていくばかりです。ですから、あまりそれは期待しない方が良いです。
特に緻密さなどは、いちばん良くなったら、次の日から落ちていくばかりです。本人は何となく気付くものです。しかし、枯れていく絵に良さを残すことはできます。
それには、やはり頭を換えていくことが重要になって来ると思います。自分の絵のこだわりを捨てて、客観的に見ていった方が良いのかもしれません。
5)普段、日常ですべき事
普段、マンガが上達する時のメカニズムを考えてみます。
マンガが上達するのは短い間にそれがおこる事は考えられません。ほとんどの場合、地道な積み重ねにによって、上達していきます。ただし、地道にやっていれば上達するわけでもありません。
基本的には、常に作品を完成させる努力をおこなっていること。
『作品を描く』ということに対して『意識』をもち、そして作品を完成させる努力を普段からして、コンスタンスに作品を上げていることが前提になります。これはプロのマンガ作家を目指す人にとっては、空気を吸うように行なってください。これが、あなたの自分の力になります。
作品を上げたら、どこに問題があるのか?いろいろな人に見せて感想を貰ったり、問題点があったらその問題点を常に考え、また、自分の長所もわかることが必要です。
目標もしっかり持ちます。何でもいいです。プロになってからの夢でもいいです。目的もしっかり持たないようでは、『意識』してマンガに打ち込んでいるとはいえません。必ず目標を持ちましょう。
まず並外れた集中力が働き、そして、ちょっと休憩した後に他の状態より並外れて上達している場合があります。
これは、普段学校の勉強を覚えるパターンを圧縮したのと似ています。
勉強をして、睡眠を取るとその勉強をしていたモノを覚えていきます。人間の脳は睡眠を取っている間に頭の中で整理をするようです。それに反して、一夜漬けで覚えた勉強はすぐに忘れます。これには、ふだん得られる睡眠によっての頭の整理が出来ないためと言われています。
これと全く同じように、マンガは学習されていくと考えられます。しかし、条件が有ります。
『並外れた集中力』が働く場合、ほとんどの場合は何か大きなものに影響を受けた時がチャンスとなります。
マンガを描くようになるには、おおむね誰かのマンガが好きになる場合が、多いと思います。その作家の真似をしてマンガに入って、そしてさらに真似を続けるか?それとも作家として、オリジナリティを追求するのかの別れ道が必ず来ます。
このポイントを見つけるには、やはり普段から作品を出来るだけ多くの人に見て貰い、『自分のマンガは誰に似ているのか』という様な情報は、つかんでおくことが重要になります。
そして、それは、ある日やって来ます。
『自分の今の絵柄でいいのか?』と、突然思います。『これからこの絵柄で通用するのか?』と深みにはまってしまいます。
ストーリーは、真似をしていてもオチが同じでなければ、同じと見なされることが少ないので、やはり気になるのは絵柄になってしまいます。悩みます。また、ここで悩まなければ、マンガ作家としては短命で終わることが多いようです。
迷って、絵柄を変えようと思って、決心をしても次の日から急に絵柄が変るということは有りません。
とりあえず、半年単位で変える事を目標に試行錯誤します。最初はパーツ単位で考えます。自分のオリジナルの目をデザインします。鼻や口もデザインします。
次にデッサンも変える努力をします。半年もきちんと『意識』していれば、地道ではあるかもしれませんが、変っていく場合があります。
やはりマンガは努力です。根性です。
そんな小さな努力で、すこしづつ変っていくスピードかもしれませんが、地道な努力をした人は結果が必ず伴って来ます。絵柄は頑張れば変っていきます。
また、変っていく絵柄のほうが魅力を生む場合が有ります。客観的に自分の絵はいいのかどうか、普段から考える必要はあります。
この、自分の絵柄を変える努力は、意外にも年齢的な制限はあまり無い様な気がします。確かに10代を過ぎると難しくはなりますが、不可能では無いように思えます。
ストーリーを上手くするには、あなたの尺度をしっかり持つこと。それと、その作られたストーリーがおかしくないかどうかを判断することが重要です。つまり、作った作品に対して客観視出来る眼が必要なのです。
ストーリーや演出が不自然だったり、キャラクターのセリフが分かりづらかったりなどを客観的に見れる力が必要です。
なかなか本人がその力をつけるのは難しいので、できたら第三者に見てもらう必要があるかもしれません。第三者にはしっかり感想を言ってもらいましょう。一人ではなく、数人に診てもらう必要があります。また、それらの意見を正しく分析してください。
編集者の意見はあまり正しくない場合がありますが、掲載への一番の近道なので、とりあえずは参考として聞いた方が良いでしょう。
これも、客観的な判断をおこなって、必要な意見は取入れましょう。
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こうして見ると、地道な普段の努力がスキルアップに繋がるようです。ここで重要なキーワードは『意識』、『(自分の)尺度』、『客観的』です。
でも、『マンガが好きである』ということを忘れず、勢いで描くマンガは面白いと思います。『好きだからガマンができる』と言うのが、マンガの原点のような気がします。

いなばてつのすけ 2006


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